考えなくていい、という安心|四次元ポケット

四次元ポケット

第5話

風呂上がりで、部屋の空気が少しだけ軽かった。
髪はまだ乾ききっていなくて、スマホの画面だけが手元に残っている。

さっきの場面が、うまく切り替わっていない。

損切りできなかった。
気づいたときには、もう少し下にいた。

切る理由はあったはずだった。
でも、その場ではうまく拾えなかった。

少し時間を置いてから、チャートを見返す。
どこで切れたのかは、後からなら分かる気がした。

そのまま、YouTube解説を開く。

関連に並んでいた動画の中から、似たようなタイトルを選ぶ。
さっきの形に近いものが扱われているように見えた。

再生して、画面を眺める。

説明は分かりやすかった。
動きに合わせて、理由が順番に並んでいく。

あの場面も、こう見ればよかったのかもしれない。

さっき拾えなかったものが、あとから置かれていく。
見えていなかったところに、何かが置かれたように見えた。

そのまま、別の動画も開く。
似たような場面を、少し違う見方で説明している。

どちらも間違っていないように見える。
むしろ、並べた方が抜けがなくなる気がした。

気になるものを、いくつか保存する。

次はこっちも見た方がいいかもしれない。
これも知っておけば、同じことにはならない気がした。

画面の中に、判断の前に置くものが増えていく。

少し安心していることに気づく。
考えなくてもいい部分が、どこかに置かれた気がした。

あのとき迷ったのも、何かが足りなかったように見えた。

もう一度、さっきの場面を思い出す。

当てはまりそうな見方はいくつかある。
けれど、どれを先に見るのかは決まっていなかった。

順番はまだ置かれていない。
それでも、揃っている感じだけは残っている。

次に同じ場面が来たとき、
どこから見ればいいのかは、まだ分からないままだった。

スマホを閉じる。

何も減っていないのに、少し軽くなった気がする。
その安心は、どこかに置かれたまま残っていた。

それが次にどう使われるのかは、まだ決まっていなかった。

「それ、使う順番は決まってる?
 そのまま増えていきそうだけど」


→次話:使った理由は覚えていない
→入口


不安も欲もある。
  何も足さない。何も引かない。
→相場で勝つために、絶対に必要なこと


 

コメント