知っている形だけが、残っていた|最弱の席

最弱の席

最初に出てきたのは、名前だった。

ああ、この並びか。

高値を揃えて、押しも浅い。
崩れていない形。

何度も見てきたやつだった。

画面を見ながら、形をなぞる。

ここで止まって、
ここで押して、
ここから抜ける。

流れは、頭の中で並ぶ。

特別なことはない。
知っている形だった。

どこで入るかも浮かんでいる。
どこで切るかも置けている。

あとは、その通りに動けばいい。

そう思って、もう一度見る。

形は崩れていない。
押しも浅いまま残っている。

やはり同じだった。

「名前は出ましたね。
では、その形で何回“入っていますか。」

一瞬だけ、手が止まる。

知っている。
何度も見ている。

でも、入った場面は出てこない。

見た記憶はある。

それでも、その中に
自分がいた記憶だけが、曖昧になる。

もう一度、チャートを見る。

並びは整っている。
崩れた感じはない。

名前も分かる。
形も分かる。

だから、入れるはずだった。

そう思って、次の足を待つ。

少しだけ上に触れる。
けれど、そのままは伸びない。

一度止まる。

それでも、崩れたようには見えない。

まだ、この形の中にいる。

知っている形は、残っている。

ただ、
どこで入るかを置いたはずの位置だけが、
少し曖昧になる。

さっきまでは、置けていたはずだった。

それでも、もう一度見れば思い出せる気がした。

だから、また見る。

形は変わっていない。
名前も変わっていない。

知っているままだった。

そのまま、少しだけ時間が過ぎる。

次の足が出る。

少しだけ伸びる。
けれど、強くはない。

その動きに、
少しだけ迷いが混ざる。

知っている形のはずなのに、
どこで入るかは、はっきりしない。

それでも、形は残っている。

崩れてはいない。

だから、もう一度だけ見る。

知っている形なら、まだ間に合う。

そんな感覚だけが、
静かに残り続けている。


→次話|やる前に、答えだけ出していた
→入口


不安も欲もある。
  何も足さない。何も引かない。
→相場で勝つために、絶対に必要なこと


 

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